幻のロシアケーキ

写真は、福岡のロシア料理店「ツンドラ」で購入したマトリョーシカです。買い集めたくなりました。

実家から少し離れた商店街(中心地)に小さな菓子店がありました。
お菓子の種類はたくさんはなかったのですが、その中のロシアケーキが絶品でした。ロシアケーキだけで4~5種類はあったでしょうか。
母が独身の時分、勤め先に近かったこの店のロシアケーキを好物としていて、当時は、そうめったに買えるという余裕はなかったのだと思います。時々このお菓子を食べるのを楽しみにしていたのだそうです。
その後、このロシアケーキの美味しさは私たち子どもたちにも受け継がれ、母が買ってきたり、私が会社帰りなどに買い求めたりして、家で皆で食べていました。このお店の白い紙袋が家にあるときは、〝あのお菓子がある〟とうれしくなったものでした。

あるときから店が休みがちになり、どうやら店主であるおじいさんが体調を崩しているらしいと風の便りに聞いて、そのうち店は閉じてしまいました。そういえば、お店では、たいていおばあさんが接客をしていました。
それからは、他の店のロシアケーキを食べてみたり、似たようなものはないか探したりもしてみましたが、あの店に勝るロシアケーキはいまのところありません。
いま思えば、あれは伝統的なロシアケーキではなく、もしかしたらフランス菓子の製法も取り入れたようなそんな風体ではなかったかと思うこともあります。他のロシアケーキとは少し見た目も違っていたし、味についてもほろほろと口の中で溶けていくようなそんな食感でした。
以前、ネット販売で取り扱っていた古書「洋菓子教本 製菓の理論と実際 / 竹林やゑ子 著」によれば、ロシアケーキはしっかりと焼き込んであるようでした。

伝統的製法であれ、おじいさんが独自に作り上げたロシアケーキであれ、グラニュー糖をたっぷりと全体にまぶしたもの(これがいちばんの好物だった)、ジャムがのったものなど、どれも実に美味しかったのです。しかし、残念なことに後継者はいなかったようです。

こうして、おじいさんが作り続けたあの幻のロシアケーキの味は引継がれることなく、静かに消えていきました。

50歳を過ぎてから料理研究家になった女性

今日は、「本とコーヒー tegamisha」に60〜70年代の手芸雑誌や料理本、食のエッセイなどを納品いたしました。
手芸雑誌では、70年代日本ヴォーグ社発行の世界手芸の旅シリーズの中から、青森の伝統工芸〝津軽こぎん〟と美しく温かみのある風合いが特徴の〝ルーマニアの刺繍〟、そしてスウェーデン刺繍やかわいい子ども向けの刺繍本なども並べてみました。

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世界手芸の旅シリーズの中の一冊 / ルーマニアの刺繍 / 日本ヴォーグ社 / 1977年

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料理本では、白系ロシア貴族の家に嫁ぎ、厳しくロシア料理を仕込まれ、さらに自らロシアの料理人からもロシア料理を徹底的に学んだ努力の料理研究家・入江麻木さん(小沢征爾氏は義理の息子)の本も置いてあります。50歳を過ぎてから料理研究家になったというのは遅咲きと言ってよいのでしょうか、実に希望が湧いてくるエピソードです。
また、婦人之友社から、辰巳浜子さんの本と家庭向きイタリア料理の本もぜひお手にとってご覧ください。

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お料理はお好き 入江麻木の家庭料理 / 鎌倉書房 発行 / 1977年

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こちらは、雑誌オリーブの特設スペースです。

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さきほどお店へ行ったとき、セキネさんがコーヒー豆の焙煎をされていました。とても良い香りでした。

懐かしい 小石川〜千駄木〜本郷 周辺

先日、千駄木にある「古道具 Negla ネグラ」さんへ2年ぶりに行ってきました。
長く暮らしていた小石川を離れ、現在の調布市へ住まいを移してからあっという間に2年が経ち、久しぶりに訪れたお店には変わらずほしいものが盛りだくさんでした。見ているとキリがありませんが、丸い足長のわりと大きなテーブルと小引き出しを購入し、今日の午後に文京区から配達に来ていただきました。あの頃は、お店のある千駄木には自転車で行けたのに、いまはバスと電車を乗り継いで行かなくてはなりません。

古書モダン・クラシックをスタートさせるため、2006年の夏に物件探しをはじめました。最初は、店主の希望で以前暮らしたことのある本郷で、その後、千駄木の「観潮楼」跡の森鴎外記念館付近に良い物件があるとの不動産屋さんからの情報を得て、見に行きました。でもここは東京。あれこれ考えているうち、あっという間に他の方の入居が決まりました。ここだ、と思ったら即決しなくては都会での物件探しは大変なのだと痛感しました。結局、小石川にある古いマンションに入居が決まり、2013年まで過ごしました。マンションの同階に住む方々はみな親切で、近くにはチェーン店ではない手作りのおいしいお弁当屋さんと、気軽に入れてゆったりくつろげるカフェがあり、小石川に決めて良かったといまでも思っています。

トップの紫陽花の写真は、数年前に小石川で店主が撮影したものです。
文京区は坂が多いため、運動神経の鈍い私は、最初に電動自転車を買ってもらいました。この自転車で、毎週、神保町の市場へ古本を買い付けに行き、妊娠中も確か8ヶ月になった頃まで大きなお腹で本郷の坂を自転車を押しながら歩き、東大病院まで通いました。

小石川の播磨坂で桜の写真を撮っていたアラーキーさん。
小石川の播磨坂で桜の写真を撮っていたアラーキーさん。

このモノクロ写真は、近所の「播磨坂」の桜並木を歩いていて、写真家のアラーキーさんと遭遇したときに店主が撮影したものです。もう一枚は、臨月の大きなお腹を抱えた私と一緒に写真に入っていただけましたが、とても優しい方でした。もうしばらくゆっくり外食もできないだろうと、義父がこの近くにあるロシア料理店「ソーニヤ」に連れて行ってくれた帰りの出来事でした。ソーニヤは、いままで食べた中でいちばん美味しかったロシア料理のお店です。播磨坂の桜並木、小石川植物園、自転車でときどき行っていた不忍池周辺など、また時間ができたら訪れたいと思っています。