幻のロシアケーキ

写真は、福岡のロシア料理店「ツンドラ」で購入したマトリョーシカです。買い集めたくなりました。

実家から少し離れた商店街(中心地)に小さな菓子店がありました。
お菓子の種類はたくさんはなかったのですが、その中のロシアケーキが絶品でした。ロシアケーキだけで4~5種類はあったでしょうか。
母が独身の時分、勤め先に近かったこの店のロシアケーキを好物としていて、当時は、そうめったに買えるという余裕はなかったのだと思います。時々このお菓子を食べるのを楽しみにしていたのだそうです。
その後、このロシアケーキの美味しさは私たち子どもたちにも受け継がれ、母が買ってきたり、私が会社帰りなどに買い求めたりして、家で皆で食べていました。このお店の白い紙袋が家にあるときは、〝あのお菓子がある〟とうれしくなったものでした。

あるときから店が休みがちになり、どうやら店主であるおじいさんが体調を崩しているらしいと風の便りに聞いて、そのうち店は閉じてしまいました。そういえば、お店では、たいていおばあさんが接客をしていました。
それからは、他の店のロシアケーキを食べてみたり、似たようなものはないか探したりもしてみましたが、あの店に勝るロシアケーキはいまのところありません。
いま思えば、あれは伝統的なロシアケーキではなく、もしかしたらフランス菓子の製法も取り入れたようなそんな風体ではなかったかと思うこともあります。他のロシアケーキとは少し見た目も違っていたし、味についてもほろほろと口の中で溶けていくようなそんな食感でした。
以前、ネット販売で取り扱っていた古書「洋菓子教本 製菓の理論と実際 / 竹林やゑ子 著」によれば、ロシアケーキはしっかりと焼き込んであるようでした。

伝統的製法であれ、おじいさんが独自に作り上げたロシアケーキであれ、グラニュー糖をたっぷりと全体にまぶしたもの(これがいちばんの好物だった)、ジャムがのったものなど、どれも実に美味しかったのです。しかし、残念なことに後継者はいなかったようです。

こうして、おじいさんが作り続けたあの幻のロシアケーキの味は引継がれることなく、静かに消えていきました。

kayo
女性向け古本担当  会社員として過ごしていたある日、ネットで生まれてはじめて買った古本『暮しの手帖』。この一冊がわたしの運命を大きく変えた。まもなく脱サラして結婚と同時に夫婦でオンライン古書店をスタート。人の普段の暮らし方について興味があり、増田れい子・住井すゑ・岡部伊都子・クニエダヤスエなどエッセイを好む。手紙舎の古本のセレクトを主に担当。千葉県出身。一児の母。書道師範。

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