日本古書通信 2015年6月号

『日本古書通信』の最新号が出ましたので告知を。 今回の私の連載「21世紀古書店の肖像」vol. 53は長崎の古書五合庵さんです。 神田の三省堂では店頭に並んでおります。あとAmazonでも購入できますし、古通さんで定期購読もオススメです。 どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

詳しくは本文を読んで頂くとして、そこで書けなかった小ネタを少々。
いろんな古書店さんを取材して、ある人が数ある仕事の中から「古本屋になる」のには大きく分けて三つのパターンがあるようです。

  1. 大学(or高校)卒業後フラフラして偶然古本屋でバイトしてそのまま古本屋になってしまう。
  2. 就職して堅気の生活を歩むも脱サラして古本屋になってしまう。
  3. 就職して堅気の仕事を勤め上げ、定年後「第二の人生」として古本屋になる。

私は①ですが、古書五合庵さんは③のパターン。そして私の知る限り、③のパターンの方は相当な古本好きが多い。
五合庵さんは東京で国税関係の仕事をされて、定年後故郷の長崎に戻り自宅の一角で古本屋を開業された。他で③のパターンで知っているのは豪徳寺のリブロニワースさん。三年ほど前に取材させて頂いたが、リブロニワースこと佐藤さんは長く大学で教職に就かれていて、インド経済史の分野ではかなり有名な方。佐藤さんは定年間際に辞められて、現在は夫婦でネット専門の古書店をされている。
お二人とも在職中は暇さえあれば古書店や即売店通いをした相当な古書マニア。趣味が高じて定年後古本屋になってしまうのだから、その情熱たるや凄まじい。実際に話を伺って、このお二方の古書収集家っぷり、あるいは書痴というべきか?古本集めに対するパッションには舌を巻いた記憶がある。

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自称「日本一狭い古書店」。自宅の一部の二坪の古書店「古書五合庵」。

さて五合庵さん。五合庵さんも国税関係という堅い仕事を勤めながら、土日の休みは古書店や即売店巡りに明け暮れていたそうだ。そして驚いたのは、そうして長年かけて集めた数万冊の本の、実に九十九パーセントは読まずに棚に飾っていたそうだ。私が驚いて「買った本を読まないんですか?」と聞くと、ちょっと機嫌を損ねたような表情で「読みません」と言う。私が曖昧に頷くと、畳み掛けるように「本を読んでたら本は集まりませんよ」と仰る。「とにかく古本を集めるのが好きなんです。」と五合庵さん。こういう方にこれまで会ったことがなかったが、五合庵さんのような方を本当の「古書収集家」と言うのだろうか、と心底驚いた。なんでも、毎年「万葉集」とか自分でテーマを決めて、それに関連する本を調べ上げ、いろんな古書店を回って本を集めたりしていたそうだ。しかも、買うだけで読まない。集めるために集める。「本は読むためのもの」と私は疑わずに信じていたが、五合庵さんクラスの古書収集家になると、本はただ「集めるためのもの」であって「読むもの」ではないらしい・・・。読まずに集めるってそんなに楽しいか?いや、自分も買った本の半分以上は読んでない・・・買ったことで満足して、棚に並べて時々眺めてはニヤニヤしてる自分がいる・・・あれ?もしかして自分も「本を集めること」が主で「読むこと」は従なのでは?・・「いずれ読む」はただの言い訳ではないか???

達観仕切った表情で「本は読みませんよ。ただ集めるんです。」と言い切る五合庵さんの静かな佇まいが今も瞼の裏に焼き付いている。何やら私は、古本道の深淵を覗いた気がしたのでした。

6月の計画大発表!

古本屋にとって春と秋はイベント・シーズン。鹿沼のカフェフェス東京蚤の市GOOD FOOD MARKETと大きな合戦(イベント)こなし、古書モダン・クラシックの「春の陣」を終えほっと一息。とは言え、「秋の陣」まで約三か月。長いようで短いのが三か月。今年こそは「直前テンパりコース」を回避するため、古本屋として充実した三か月を過ごしたい。
というわけで、誰に求められてるわけではないけれど、勝手に古書モダン・クラシックの「6月大計画」を発表します!いつもながら計画だけは目白押しです。乞うご期待!

◼︎ 6/4〜6/8までカミさんの実家の銚子de骨休め。ブログの更新はやります。
◼︎ 6/8週より毎週金曜日にネットの新着本アップ。
◼︎ 男性向け、女性向け、それぞれ月に一回ずつ特集をやります。
◼︎ ロゴ、値札、ショップカード、看板などロゴ周りのデザインを一新
◼︎ 間に合えば古本の買取も開始します。
◼︎ カミさんが「本とコーヒーtegamisha」にて「季節の本棚」コーナーを作りたいそうです。
◼︎ 前々からやりたかった「手紙舎つつじヶ丘本店」の写真集充実計画に着手。

本日の「たかが古本、されど古本」はこんな所で。
それでは皆さんまた明日!

BOOK5 16号 「特集 二足のわらじ 本業と本業のあいだ」

Labor of Love. 直訳すると「愛の労働」。英語で「好きでやる仕事」とか「無償の奉仕」といったときに使う言葉だ。私にとって古本屋とは、文字通り「Labor of Loveー愛の労働」である。これまでも、そしてこれからも。『ぼくと二足のわらじ』古賀大郎

先日発売になった『BOOK5 16号 特集二足のわらじ』にて「ぼくと二足のわらじ」というちょっと長めの文章を書かせていただきました。『BOOK5』はトマソン社さんが発行している小冊子で、「本に関わるすべての人へ発信する情報バラエティ誌」。毎号本好きを唸らせる特集を組み、特集以外にも、古本ライターの南陀楼綾繁さんや古本屋ツアー・イン・ジャパンの小山力也さん、私の呑み友達である古書赤いドリルの那須太一さんなど多彩な人々が連載されている大変面白い雑誌です。

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今号は本に携わる方の「二足のわらじ」がテーマで、古書モダン・クラシックを開店してから去年まで8年の長きにわたり、古本屋と郵便局という二足のわらじを腰までズッポリと履いていた私に執筆依頼が来たのでした。私が勤めていた郵便局の仕事を簡単に説明すると、「新夜勤ゆうメイト」といって要はアルバイトでして、夕方6時から朝8時まで寝ずに仕事をするというもの。つい去年まで私は、夜中郵便局で仕事し、終わったら昼まで寝て、それから古本の仕事をしてまた2・3時間寝て郵便局に行くという、ブコウスキー顔負けの崖っぷち生活を送っておりました。詳しくは『BOOK5』に書かせて頂いてますが、いろいろあって去年の2月に郵便局を出所することができ、そこら辺りの一部始終を面白おかしく、しかし郵便局へのルサンチマンたっぷりに書いております。われながら出色の出来のルポルタージュになっていると思うので(笑)、ご興味のある方は是非。あわせてシモーヌ・ヴェイユの『工場日記』、ジョージ・オーウェルの『パリ、ロンドンどん底生活』、そして言うまでもなくブコウスキーの『POST OFFICE』などをお読みになれば、本に携わる人間の「二足のわらじ」が、いかに昔からポピュラーであったか分かると思います。

『BOOK5 16号 特集二足のわらじ』は当店のオンライン・ショップでもご購入いただけます。▶︎『BOOK5 16号 特集二足のわらじ』