前回の続き:【3days Bookstore !? ①】それは「たいした本ないね」の一言から始まった
手紙社のK氏に「やります!」と答えたものの、イベントは一人ではできない。「仲間」がいる。だが私は、調布でこぢんまりとやっているオンライン古書店だ。知名度もなく、人望も全くない(泣)私の中にあるのはただ一つ。お客さんに言われた「たいした本ないね」の言葉。いや、これはただの言葉ではなく「メッセージ」だった。私に対しての、そして古本屋そのものに対しての・・・?
では「たいした本」とは何だろう?それから私は、会う人ごとに「どんな本が好きか」「どんな本を買っているか」聞いて回った。答えは予想だにしないものだった。
ある主婦の方は、文学が好きで「遠藤周作をよく買う」と話してくれた。ある女の子は、親の仕事の関係で、建築関係の本を買うと言う。ある男性は、草花の本と万葉集、奈良・京都の写真集が好きなのだそうだ。そのほか、図鑑を集めている女の子、暮らしにまつわる本が好きな方、推理小説が好き、雑誌が好き、絵本を集めているなどなど。
いくつかを除いて、どれも私が東京蚤の市に持っていかないタイプの本ばかりだった。マニア受けするような、古本屋として「オッ」と思うような貴重な古い本を挙げた人は一人もいなかった。本好きにもいろんなタイプがいる。だが多くの人たちが「そこ」に求めているのは、えてして古本屋が「珍しくもないもの」として軽視しがちな古本、それも驚くほど「多様な」本であった。
ここでふと、考えてみる。
古本屋を長くやっていると、表紙の見栄えがする本、同業者が持ってこないような珍しい本に、だんだん意識が向いていく。それは仕方がないことだ。逆に市場に出回っていて、古本屋として集めるのにさほど苦労しないような本は、イベントにも持っていかず、取り扱わなくなっていく。だが、同業者が競い合う「オラが本自慢」と、多くの人々が本に求めているものに、ズレが生じているのではないか?
私も、本が好きで、古本屋になった。
だが、私の人生に大きな影響を与えた本 −志賀直哉、小林秀雄、ジョルジュ・バタイユなど −は、どれも、どこの本屋でも手に入る、珍しくない本ばかりだ。本から受ける影響に、その本の値段や、珍しいかどうかは関係ない。「いい本はいい」のだ。例えば志賀直哉の文庫はアマゾンで1円で売られているが、私にとってはプライスレスではないか!?
よし決まった。古本屋のエゴとか、そんなものは、本の価値とも、お客さんが本に求めているものとも関係ない。古本屋がもう一度原点に立ち戻って、それぞれの得意ジャンルの名著、オススメしたい本、自分が感動した本を、ストレートに持ち寄る、そんな古本イベントにしたい。そのために、いろんな楽器を持ち寄って、一つのバンドが生まれるように、得意ジャンルの違う、しかも扱うジャンルに愛と経験を持っている、そんな背筋の一本通った古本屋さんに参加してもらいたい!
こうして、主催者である手紙社の協力のもと、単に「出店者を募る」と言うより、「趣旨に賛同してくれる仲間」集めが始まった・・・。
まだ名前もなく、形も決まっていない、西調布の手紙舎 EDiTORSで行うイベント。あるのはただ、原点に立ち戻って、余計なものを取り去り、お客さんと本とが出会う新しいカタチ(イベント)を創りたいという熱い思い・・・。
この、事業計画書だったら銀行に叩き返されるような状態で、イベントへの参加を快諾(!)してくれたのが、以下の「7つの古本屋」である。
・MAIN TENT(吉祥寺) − 国内外の絵本
・古書まどそら堂 (国分寺)− 推理、SF、サブカル、少女漫画etc.
・カヌー犬ブックス(府中) − 料理、暮らし、旅など
・古書玉椿(調布) − 手芸本、フォークロア
・クラリスブックス(下北沢) − アート・デザイン、哲学思想、文学etc.
・古書むしくい堂(八王子) − 鉄道、音楽、切手etc.
・古書モダン・クラシック(調布) − 料理、暮らし、歴史、ノンフィクション、写真集etc.